「なんでこんなに人が少ないの?」
「保育士って何人いればいいの?」
「どうやったら人が増えるの?」
休憩は取れない、事務仕事はできない、毎日しんどいですよね。
「もっと人がいれば楽になるのに…」と思いますが、増やすのは簡単ではありません。
保育士の配置には最低基準があり、それを元にお金が出ています。
そして最低基準が低すぎるため、お金も無く、人も増やせない仕組みになっています。
しかし、保育士をたくさん配置していて、なおかつ給料も高いという保育園もあります。
今回は、保育士配置基準の基本と問題点を、ザックリ解説します。
保育士の配置基準って何?
保育士の配置基準(最低基準)とは、「最低でもこの人数の保育士を配置してね」という基準です。
国が示した基準を元に、都道府県等が定めています。
必要な保育士の数
国は、以下のように示しています。
保育士の数は、乳児おおむね三人につき一人以上、満一歳以上満三歳に満たない幼児おおむね六人につき一人以上、満三歳以上満四歳に満たない幼児おおむね二十人につき一人以上、満四歳以上の幼児おおむね三十人につき一人以上とする。ただし、保育所一につき二人を下ることはできない。
出典:児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(第三十三条 2)
わかりやすく表にしてみます。
年齢 | 子どもの数と保育士の数 |
0歳児 | おおむね3人に保育士1人 |
1・2歳児 | おおむね6人に保育士1人 |
3歳児 | おおむね20人に保育士1人 |
4・5歳児 | おおむね30人に保育士1人 |
原則として、どこの保育園でも最低この人数の保育士は配置されています。
施設によって異なる点も
保育施設には様々な施設があり、それぞれ基準が少し異なります。
例として、小規模保育施設を見てみましょう。
小規模保育…原則として対象は3歳児未満・定員は19人以下
施設 | 配置基準 | 資格者 |
小規模保育 A型 | 0歳児…3対1 1歳児…6対1 2歳児…6対1 | 保育士 (全員) |
小規模保育 B型 | 0歳児…3対1 1歳児…6対1 2歳児…6対1 | 保育士 (1/2以上) |
小規模保育 C型 | 0歳児…3対1 1歳児…3対1 2歳児…3対1 | 研修修了者 でOK |
小規模保育の中でも、配置基準や資格者の割合が異なることがわかります。
いま働いている保育園の配置基準がどうなっているのか、なんとなくでも知っておきましょう。
調理師や看護師は?
保育士以外の職種について、「置かなければならない」とされているのは、以下の3つです。
- 保育士
- 嘱託医
- 調理員
保育所には、保育士(特区法第十二条の五第五項に規定する事業実施区域内にある保育所にあつては、保育士又は当該事業実施区域に係る国家戦略特別区域限定保育士。次項において同じ。)、嘱託医及び調理員を置かなければならない。ただし、調理業務の全部を委託する施設にあつては、調理員を置かないことができる。
出典:児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第三十三条
なんと園長は必置になっていません。
看護師も必置ではありませんが、一定条件付きの特例で、保育士として看護師を配置できるようになっています。
また、栄養士や調理師も必置ではありません。
定員が何人であろうと、調理員が1人いれば最低基準を満たしています。
公定価格上では、定員数に応じて複数配置できるようになっています。
40人以下…1人
41人~150人…2人
151人以上…3人(うち1人非常勤)
なお、調理全般を委託している場合には、調理員はいなくてもOKです。
保育士配置基準の問題点
少なすぎて保育できない
そもそも、最低基準では人が少なすぎて保育できません。
日々、子どもたちの安全を守ることで精一杯。
もし災害があったら、1歳児6人を保育士1人で連れて逃げるなんて無理です。
海外ではもっと保育士が多く、例えばフランスでは4・5歳児が15対1です。
国の基準が低すぎるため、独自基準を設けて保育士を増やせるようにしている自治体もあります。
事務仕事の時間は含まれていない
保育時間は、1日8時間が原則とされています。
配置基準も、8時間保育を前提として作られています。
保育所における保育時間は、一日につき八時間を原則とし、その地方における乳幼児の保護者の労働時間その他家庭の状況等を考慮して、保育所の長がこれを定める。
出典:児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第三十四条
8時間分いればいいとか、保育士が足りるわけないですよね。
しかも、すべてが「子どもと接する時間」です。
事務仕事や行事の準備など、保育以外の時間は考慮されていません。
当然、サービス残業や持ち帰り仕事が多くなります。
トイレにも自由に行けない、それが日本の配置基準です。
おおむねだから四捨五入
配置基準の表をもう一度。
年齢 | 子どもの数と保育士の数 |
0歳児 | おおむね3人に保育士1人 |
1・2歳児 | おおむね6人に保育士1人 |
3歳児 | おおむね20人に保育士1人 |
4・5歳児 | おおむね30人に保育士1人 |
「おおむね」と書いてあります。
どういうことかと言うと、小数点以下が四捨五入されます。
例えば99人の保育園では、必要な保育士数を合計すると「9.3人」です。
「じゃあ10人か」とはならず、四捨五入して9人になります。
また、四捨五入されることにより、「園児数は違うけど保育士数が同じ」ということも起こります。
90人の保育園では、12人の保育士を配置できます。
10.5人を四捨五入して11人
→定員90人以下は休憩保育士1人配置可能
→11+1=12人
113人の保育園でも、12人の保育士を配置する計算になります。
12.4人を四捨五入して12人
→休憩保育士の加配が無い
→12+0=12人
結果、子どもの数が90人と113人でも、保育士は同じ12人になります。
年齢構成にもよりますが、少なくとも「切り上げ」にするべきです。
繰り上げて計算しているサイトもありますが、「四捨五入」が正しいです。
クラスごとの配置ではない
保育園は、「全体での必要人数」という考え方です。
クラス単位では計算しません。
先ほど例に挙げた113人(保育士12人)の保育園でシミュレーションしてみます。
クラスごとに計算し、端数を切り上げると、14人になります。
また、幼稚園や小学校では「35人までの学級制」なので、子どもが36人いると大人が2人になります。
しかし、保育園では45歳児が36人いても保育士は1人です(1.4人を四捨五入)。
「保育園全体での必要人数」のため、0.4人分は他のクラスから調達しなければなりません。
1人では無理なので2人配置することになりますが、0.6人分の人件費は保育園の自腹です(=みんなの給料が減る)。
保育に格差が生まれる
自治体や施設によって保育士の人数が異なり、子どもへの保育に格差が生まれてしまいます。
隣の市なのに、保育士の数が倍も違うことがあり得ます。
A市…1歳児6対1
B市…1歳児3対1
近所の保育園なのに、保育士の資格を持っている人が半分しかいないこともあり得ます。
C保育園…全員が保育士
D保育園…半分が保育士、半分が無資格
子どもは保育園を選べませんし、保護者も希望通りの保育園に入れられるとは限りません。
どこの地域&どこの保育園に通っても、同じ水準の保育を受けられる仕組み作りが必要です。
保育士確保が困難
実は、配置基準の改正に反対している人もいます。
理由は、保育士を確保できないから。
例えば、改正によって今より3人多く配置できるようになったとします。
すでに最低基準よりも多く配置している保育園は、3人分の人件費を自腹で出さなくて済むようになります。
一方、最低基準ギリギリの保育士数で運営している保育園は、新たに保育士を3人雇う必要があります。
保育士の有効求人倍率は2.49倍(2022年10月)であり、簡単には確保できません。
(出典:こども家庭庁)
2024年度からの改正で「経過措置」期間が設けられているのは、これが理由です。
とはいえ、「保育士を確保できないから基準を改正しないでほしい」というのは間違っています。
「保育士を確保できるように、給料や労働環境を良くしろー」
「保育士として働きたい人が増える(戻ってくる)ように、給料や労働環境を良くしろー」
このように、運営者が国や自治体に求めていくべきです。
もちろんすぐには良くなりませんが、「給料が改善するまで配置基準も改善しない」となると、いつまでも何も改善されません。
配置基準のさらなる改善を求めつつ、保育士確保のための給料&労働環境の改善も同時に訴えていく必要があります。
まとめ
- 保育士の配置は最低基準に基づく
- 国の最低基準が低すぎて人が少ない
- しかも四捨五入
- クラス単位ではない
- 事務時間は無視
- 自腹で人を増やしている保育園が多い
- 増やせるようにしている自治体もある
- 配置基準改善により給料も上がりやすい
- 保育士を確保できるように給料と労働環境も改善を
配置基準が改善されれば、保育園の運営費に余裕ができます。
給料改善に反映できたり、人が増やしたりできます。
人が増えれば働き方も改善されます。
最低基準ギリギリの保育園もあれば、2倍くらい配置している保育園もあります。
自分の保育園は保育士が少ないのか多いのか、一度計算してみてください。